2015年9月9日水曜日

ISEWANカップ DAY2
二日目の競技の行方を決定した最も大きなファクターは天候であったと言っても過言では無いでしょう。9月6日の気圧配置は停滞前線のちぎれた中部地区の西から、前線上の低気圧が徐々に近づいて来るというもの。昨日から北東よりの風が吹き続けて気温は低く、先行する雲に覆われ日照は無く、サーマルアクティビティは期待出来ない。となると風を吹かせる要素は、前線に沿って発生し通過していく雨雲によるもので、これは、雨とセットで吹いては降り、晴れては止むという不安定な繰り返しになるだろうと僕は予想していました。ところが、会場に到着してしばらくすると、それまでの無風とは一変して7~8mの東風が吹き込んで来た。僕の予測は吹いたり、止んだりを繰り返しながら、雨とセットで強さはせいぜい4~5m止まり。何かの突風で瞬間最大で強めが入る可能性はあるかな? というものだったので、朝いきなりの、この風は全く予想外。「まぁ、偉そうな事言っても外すときゃ外すな…」と思いつつ準備を整え、レスキュー艇に乗り込み、ちょい荒れ気味の港外に乗り出して行くと、港を出た時はひどく大きかったうねりが何か、収まってきている。ありゃりゃ? と思ってあたりを観察すると明らかに風が落ちてきている。あ〜予想が当たったけど、これはありがたく無いなぁと思いつつ西の空を観察すると朝真っ黒だった雲は姿を消し、薄明るい雲に覆われていました。天候についてまとめておくと、この日はこの後も、レースが出来そうなくらい風が上がると雨が来て、通り過ぎるとまた風が落ちてを繰り返し、選手達を翻弄しました。実は風が強いタイミングは吹き始めると約30分程度続き、吹かない時間のインターバルはサイクルが無いという事までは観察して、沖で吹き始めた時点で本部に指示出しすれば、吹いてる30分以内にヒートをこなす事が出来ないだろうか? とも考えていました。ですが、沖で吹き始めたタイミングでスタート時間を指示しても、まだ岸には風が到達していないので、そもそも選手が出艇する事が出来ない。うーむ、これはお手上げ…と思いつつ。成り行きに任せてレースを見守っていました。
もう一つ、この日、ユニークであったファクターは機材の逆転現象でした。最終レーストップを獲得した川上選手が使用していた機材は出場選手中最もビギナー向け設定のスロカ・ハイドロフォイルにカイトはカタリスト! つまり、コンディションによっては、最高性能を誇るラムエアーカイトや競技用ハイドロフォイルも、ただのお荷物になりかねないという教訓を孕んだレースだったのです。
第3レース:逆転の下ごしらえ
長いウェイティングの後に始まった二日目最初のレースは、スタートこそ主要選手が切れたものの、落ちてしまった風とカイトの重量を重くしてしまう雨とで、延々タックを繰り返しても、なかなか選手が上マーカーにたどり着かない、珍しいレース展開になりました。前日までトップを走っていた杉原選手は重量増で失速しやすくなったR1 15を、それでも、なんとか落とさずに走るものの、微風に強いセッティングのスロカとクロノ18を使う川上選手に追いつくことは叶わず、最初の上マーカーを川上選手がトップで周回。そのまま逃げ切るかと思いましたが、どこかで米原選手にかわされたと思しく、このヒートは米原選手がトップ、その後に川上選手、杉原選手と続き、後はレースボードクラスまで含めて、フィニッシュ出来た選手は無しという結果になりました。これほど難しいヒートであるにも関わらず、ツインチップクラスでフィニッシュした佐藤選手は、さすがにお見事。オゾン・チームによるゴール独占を自ら阻むあたり、フライサーファー・チーム監督の意地か、はたまた長年ラムエアー一筋の絶妙なカイト操作のなせる業か? ともあれ、ライバルチームの監督に相応しい活躍でした! 実は今大会、川上選手の優勝を確定させる事になる最初のきっかけがゴールの直後に起こっていました。杉原選手がゴール後に気が緩んだのか、大会本部から離れた本部艇付近のビーチにカイトを落としてしまったのです。沖合でこの様子を見ていた僕は「あ〜、もうR1 15は使えない…」と思いました。軽さが命のラムエアーカイト、水に落ちたくらいでは、扱いが難しくなる程度ですが、濡れた状態のままビーチに落とし、砂がついてしまうと、全くもってただのお荷物になってしまうのです。それでも晴れている日だったら、砂を払い落とし、少しの間飛ばしておけば、表面が乾いて砂が落ちてくれるのですが、中途半端に雨の降るこの日、表面を強い雨が洗い流してくれるでもなく、乾いてくれるでも無い状態では、砂が落ちる事はありません。つまり、この時点で杉原選手は即座にスタンバイさせてあったエッジ13にカイトを切り替えるべきだったのです。
第4レース:ひっくり返った世にも珍しいレース
第4レースのリザルトを見ると、ある事に気がつきます。二位の武田選手だけ自信が無いけど、他の順位がついている選手は全て最初からインフレータブルで戦っているか、インフレータブルにカイトを切り替えた選手達です。川上選手はカタリスト、古田選手はエッジ、赤土選手は機種は判らないけど、インフレータブルに切り替えていました。さらに、トップの川上選手にいたってはボードもビギナー向けセッティングのスロカ・ハイドロフォイル。つまり、通常だったらアドバンテージになるはずの、フォイルカイトがこのヒートではディスアドバンテージになり、通常ならば速度で他のウイングに譲る、ビギナー向けウイングがアドバンテージとなったのです。
ではなぜ、このような逆転が起こったのでしょう? 実はこの日、雨という要素の他に波という要素も勝敗に大きく影響したと思うのです。この日、朝イチの強風からの流れで、このビーチにしては珍しくビーチにはひっきりなしにひざ〜腰くらいの波が押し寄せていました。ハイドロフォイルに乗った事の無い人にはピンと来ないかもしれませんが、弱い風の中、遠浅でオンショア&波が入る中、ハイドロフォイルでスタートするのって、かなり困難なのです。ご存じのとおり、ハイドロフォイルには1m近いマストがあります。通常ならば、腹から胸くらいの深さまであれば、難なくスタート出来るのですが、波があると海面自体が40~50cm上下するわけで、この中、オンショアの風で有効水深まで沖に出ていくのはエキスパートにとっても大変だったと思うのです。その中、ビギナー向けにマストの長さを80cmに抑えてあるスロカは明らかにスタートで有利だったことでしょう。それは前日の練習においてスポッツを借りた時にも体感しました。実際、杉原選手も自らのレポートでスタートに手間取った事で焦りが出たと述回しています。考えてみると、ラインナップが揃えば、状況に応じてマストを80cmと95cm、Fウイングをレース、インターミディエート、ビギナーと組み替えられるスロカって、意外とレース向きじゃないかね? と意外な側面を発見した今レースでもありました。 
一方、カイトについてはやはり雨が逆転を引き起こしました。もともと、ある程度重い翼を強引に飛ばすよう設計してあるインフレータブルは、軽さを前提にデザインされたフォイルカイトに比べて、雨に濡れて重くなってしまった場合でも性能の下げ幅が少ないのです。おまけに仮にビーチに落として砂がついてしまっても、海にわざと落として砂を流すという荒技が使えます。
そのようなコンディションは、第4レース、スタート直後に結果となって現れました。後れを意識してポートスタートした杉原選手は、そのまま南に寄りすぎて、おそらく海岸の障害物からの乱流に叩かれたのでしょう、カイトをたたき落とされてしまうのです。本人は謙遜してタックに失敗と言っていましたが、遠目ながら、あれは明らかに乱流の影響でした。やむをえません。まぁ、あえて、本人の失敗を指摘するとすれば、それは、タックそのものではなく、南東クロスの風の中、障害物に近い南側、奥深くまで入り込んでしまった判断そのものです。明らかにリランチは無理と思われたのでレスキュー艇を走らせたため、レースの展開は判りませんが、結果を見ればだいたいの様相は検討がつくというもの。武田選手を除けば、インフレータブルにカイトを切り替えなかった選手は全クラスを通じて全滅です。
この最終レースでの結果が決定打となって、川上選手の逆転が確定しました。レースって一見地味だけど、個々の選手の思いやタクティクス、コンディションの読みが加わるとさらに奥深く、面白くなっていきます。たとえば勝負に”たられば”は禁物ですが、あえてルールを破って、もう一本レースが出来るコンディションが続いていたとしたらどうでしょう? 当然杉原選手はカイトをエッジに切り替えて臨むでしょう。そして、5本目が成立した時点で、1レースをカット出来るので、杉原選手は完全に落とした第4レースを外す事が出来ます。川上選手も悪いレースを落とす事が出来るので、ほぼ、次のレースで勝った方が優勝をものにするという展開になったはずです。僕が思う本当に強い選手というものは、ここから先の神経をすり減らすつばぜり合いをミス無く最大のパフォーマンスで戦い続けられる選手であり、そういった戦いを通じてこそ、選手互いの信頼と尊敬が築かれていくというものです。まだまだ、参加人数も少ないし、オーガナイザーのご苦労も大変であろうとは思いますが、この面白さ、参加者の熱さが少しでも多くの人に伝わり、多くの参加者に集まってもらえるよう、僕もなるべく時間を見つけてレポートをまとめるよう心がける次第です。

2015年9月7日月曜日


ISEWANカップ第二戦 スタッフとしての雑感あれこれ

今回のISEWANカップ、初日は北東から南東までシフトする弱風コンディション、二日目は7~8mの順風から3m以下の破滅的な微風まで、ころころ変わるトリッキーな風と、定期的にやってくる雨という悪コンディションに、多くの選手が翻弄されていました。以前にレポートした大会と違い、今回の大会は、レース展開のかけひきの妙というよりは、コンディションの変化に応じた機材のチョイスと競技エリア全体のコンディションに対する読みで勝敗が決まった感があるので、その辺りを意識しつつ、雑感を書き記しておこうと思います。
未来はハイドロフォイルに?
今回目についたのは、ハイドロフォイルで参加する選手の増と、フォイルカイトのバリエーションの増。以前にレポートした大会では杉原選手と古田選手の2名しか参加の無かったハイドロフォイルですが、今大会では、参加選手16名のうち9名がハイドロフォイル。参考までにツインチップクラスが4名、レースポードが3名と続きます。ハイドロフォイルビギナーの一人として申しますが、やはり、一旦ハイドロフォイルの上に立ち、あの無抵抗の滑走感を味わったら、どんなに技量が拙かろうが、ハイドロフォイルで戦ってみたいと思うのが素直な気持ちであろうと思います。
ツインチップクラスはエントリークラスとして、カイトボードビギナーから参加出来るよう門戸を開くべきですが、他のクラスと同じコースで戦うのは、コンディションが悪化すると少々厳しそうに思えました。今後、もっとイージーなコース配置、ノービスクラスの新設など方策を施し、エントリーレベルの選手でも楽しめる工夫をしていったら良いのではと思います。
レースボードに関しては、参加選手の激減が顕著です。今回、あえて結果狙いでレースポードクラスをチョイス、確実にクラス優勝をさらった後藤選手のようなタクティクスもアリですが、欧州でも新しい製品や選手が出てこないと選手が嘆いておりました。現況少々旗色の悪いカテゴリーですが、依然IKAのシリーズ戦の主力の一つであり、オリンピック種目の候補カテゴリーの一つでもあります。また、今後、市場にだぶついて手に入れやすくなるであろう、中古レースボードを手に入れた人達に腕試しの場を提供するという役割も今後担っていくだろうと思います。
フォイルカイトの興隆
一方空中へと目を移すと、フォイルカイトの割合が圧倒的に増えてきました。以前のエッジ一色というような有様でクロノやR1が幅を利かせているというわけではなく、フライサーファー、エルフなど、他のブランドもほどよく混ざり(F1 ディアブロ Come on!)、健全な競技環境が整ってきたように思えます。ディストリビューター的には、そりゃぁオゾン圧勝が好ましいですが、そんな状態が続くと、競技自体が先細っていってしまうものです。各自がそれぞれ、自分が一番だと思う道具を持ち込んで死力を尽くし、その上で勝敗が決していくのが競技の醍醐味です。(もっとも、そうそう、”トップになりたければ、これに乗れ”というブランドの位置を譲る事はありませんけどね;-))
一方、そんなフォイルカイトもあらゆるコンディションでレース万能というわけでは無い、という事が明らかになったのが今大会でもあります。その辺りは別途後述。
競技&コンディションの展開
初日の予報は晴れ。午後遅くから南東の微風でしたが、予想外に早く風向きが変わり午前中からちょい北寄りの東風が弱いながらも入り始めました。初日はレスキュー艇要員が足りていたので、ビーチ待機であるのを良いことに、僕はレースが始まる前にクロノV2 15でハイドロフォイルのコソ練(全然コソじゃない!)。
実はクロノV2は安定感と操作性を高める為、微風側の飛行限界が広く取られている印象が有ったので、あえて、無理だろうと思われる微風でトライしてみたのですが、やはり、案の定、微風限界付近での安定性とスロカ・ハイドロフォイルの低速性能とで、R1も含めた他のフォイルカイトがまだ悪戦苦闘するコンディション下、なんとか走る事が出来ました。反面、クロノV2を試したR1乗りからはカイトの速度が伸びないというフィードバックをもらっているので、R1やクロノに比べて飛行速度域が低速側にシフトさせてあるのかな? という印象を持っています。ただ、この中低速域でいかんなく性能を発揮してくれるので、レースの戦い方がR1とは違ってくるんじゃ無いかな? と思っています。そのあたりはもう少し乗り込まないと判らないので、追ってレポートします。
そうこうする内に風が次第にあがり、選手が出始めたので、僕はビーチに上がりレース観戦とうちの若手選手のツインチップクラスデビュー戦のサポート。12時半からの第一レースは今大会中、一番レースらしいレースを杉原、竹田両選手が戦ってくれました。両選手、それぞれタクティクスも異なり、ミスなども交えながら、ゴールは肉薄する竹田選手を押さえきって杉原選手がトップゴール。川上選手がこれに続く制限時間内にゴールラインをカットして、この3名を除いた他の選手はDNF(時間内にゴール出来なかったので無得点)。ツインチップクラスはあまりの微風に、佐藤選手以外はスタートラインすらも通過出来ずに終了してしまいました。
続く第二ヒート、コンディションはさらに困難になり、第一ヒートで果敢なデッドヒートを見せた竹田選手がカイトを落とし、スタート前に戦線離脱。ギアを切り替え、ミスを警戒して流す杉原選手をスロカにボードを替えた川上選手が猛追。ゴールラインでは順当に杉原選手が逃げきり、トップゴール、続いて川上選手、米原選手が時間内にゴール。レースボードクラスでは後藤選手のみがゴール。ツインチップ・クラスはまたも佐藤選手以外はスタートにも困難する有様、もっとも、佐藤選手とはみんな使っている道具が違うので、奮わないのも当然と言えば当然なのですが…
ここで、一つ競技中にうちの若手に教えたアドバイスを一つ公開しておきましょうね。すごく基本的で簡単な事なのですが、競技中だと頭まっ白で気がつかない事がままありますので。
風向きの変化とコースの構成を良く見ましょうね
この日、多くのツインチップクラスの選手達がスタートラインを切る事が出来ず悔しい思いをしていました。その人達のうちどれくらいの選手がこの日、競技中に風向きが東北東から東南東にゆっくりシフトしていったことに気付いていたでしょうね?
朝方の東北東の風に合わせて、本部艇とスタートラインは、南北に延びる阿漕浦の海岸の、かなり南よりに設定されていました。風が東北東、あるいは東くらいだったら、スタートラインまで行くにはなんの苦労も有りません。でも、実は当日、風は徐々に南にシフトして東南東クロスになっていたのです。ということは、本部艇の位置までかなりアップウインドしなければスタートラインをカット出来ません。で、うちの若手は馬鹿正直に大会本部前から出艇して、死にものぐるいでスタートラインまでアップウインドしようとしていたのです。で、僕がしたアドバイスは単純明快「次のスタートまでにビーチの南まで歩いておきなよ。」というもの。その時間の風は海に向かって右クロスになっていたので、充分に南からスタートすれば、なにもアップウインド出来なくてもアビームでスタートラインをカット出来るからです。いったんスタートラインをカットさえ出来れば、その後、風のあるところを求めて移動できる海域は大幅に広がります。その広がった範囲の中からアップウインドが出来る領域を見つけて少しづつ、上に登っていくのが、微風コンディション下、ツインチップクラスのタクティクスでは無いかと思うわけです。というわけで、レースビギナーやこれからレースに出てみようと思っている皆さん。大会中でも常に風の変化を意識して、オーガナイザーの設定したコースに当てはめて考える習慣をつけましょうね。意外と全然しなくて良い苦労をしていたり、ちょっとした工夫で、それまでの失点を簡単に挽回できたりするのが、この手のコンディション相手のスポーツの醍醐味なんですから。
後編(二日目に続く)

2015年9月3日木曜日

クロノV2 7.0 インプレ


一昨日届いたクロノV2、昨日午後から雨が上がったのを見計らい、早速試してきたのでインプレッションをまとめてみた。

クロノV2は、衝撃的な微風性能とレースでの圧倒的なリザルトで、カイトボード界におけるフォイル・カイトへの見方を、ものの見事に塗り替えた「クロノ」が全面的な改良を施されて生まれ変わった第二世代モデルだ。恐ろしく細長く、スモールサイズは若干神経質な挙動を残し、時にユーザーに特別な取扱を要求する先代に比べ、V2はセッティングからライディングまで、あらゆる面での取り扱い易さと、飛行中の安定性に注力して仕上げられたと聞いている。実はすでに7月の頭にスペインで映像撮りの現場に立ち会い、現物は一度目にしている。ただ、あいにくその時は撮影最優先で、自分で飛ばす事は出来なかった。ようやく手に入れた現物を手に、わくわくしながら僕は海に向かった。
折からの前線通過で、風は強めの南南西8~9m。昨晩から風が吹き続けているので海面はチョッピーで、すでにライディングしていた仲間の言によると、レオ9でジャストアンダーからオーバーで結構ガスティとのこと。予想通りのコンディションに、持参した7.0を早速広げてみる。バッグの形状やカイトの外観はR1に非常に良く似ている。それもその筈、R1とクロノV2は、もともとクロノ2を作る為に用意された複数のプロトタイプから、それぞれ違う道を歩む事になった兄弟カイトであるからだ。カイトを広げ風上を折り曲げ砂を載せ、ブライダルをチェックする。クロノV2はクロノやR1と異なり、サスペンション・ラインに被覆のある少し太めのラインを使用している。ブライダルを持ち上げてピンと張るだけで、絡みはぱらぱらとほどけるので、扱いは相当楽になっている。実は取扱だけでは無く、被覆があるだけで、ラインの寿命もぐっと伸びる。また、傷がつく時にはたいがい被覆が傷つくので、破断してしまう前に交換の必要に気付くのも慣れないユーザーには優しいポイントだ。
バーは2015タイプのフォイル・バーに500/300kgの25mライン。R1のコンプリートが300/300kgのレース・ラインであるのに対して、やはりクロノV2は耐久性重視だ。バーはレース用とフリーライド用があるが、それぞれ、2015コンタクト・ウォーター・バーにフォイル用のブレークハンドルを取りつけた仕様になっている。つまり、インフレータブル用のコンタクト・バーにブレークハンドルを取りつけてフォイル・カイトに使う事も、フォイル用バーでインフレータブルを飛ばす事も双方問題が無いという事だ。今回、7.0の試乗カイトに僕はフリーライド・バーを選択した。理由は後ほどライディングのインプレッションで述べる事とする。
ランチング
風が強いので、カイトをエッジよりから上げる。実はフォイル・カイトのランチングはいつでもまっすぐ風下から上げると勘違いされている向きがあるのだが、それは間違い。風が強い時はやっぱりエッジ・オブ・ザウインドから上げる。どうするかというと、カイトの風上側のチップを折り曲げて、砂を載せスパン方向が風に沿うように広げてやる。そこからラインをまっすぐアビーム方向から30〜40度くらい風上に伸ばし、準備が出来たらカイトの風下側から風をはらむようにゆっくりとラインを張ってやる。するとカイトが風を受けて、砂を載せたチップを基点に立ち上がるので、その状態でバランスをとってやりながら、砂を払い落とし、ゆっくりカイトを上げてやるのだ。試してみると、あんまり簡単なんで、みんなびっくりするだろうと思う。
でクロノV2を上げてみたところ、びっくりしたのは僕の方だった。クロノV2はラインを張った途端あっという間にカイト全体に空気を取り込み、わざとバー操作をルーズにしたのにチップが潰れるような事もなく、スッとランチングしてしまったのだ。ランチングが楽になるとオゾンの担当者に聞かされていたが、まさか、これほどとは…という程のあっけなさだった。
空中のカイトを見上げると、アスペクト比はR1やクロノよりも抑えられている事が見て取れる。翼としてのスペックをオゾンは発表していないが、ハイアスペクトの矩形翼を連想させたクロノに比べ、曲線の美しい楕円翼に近い。バー操作に対する反応は予想外にマイルド。実はフォイルカイトのスモールサイズを飛ばす時に危惧していたのは、ハンドリングがピーキーになってしまわないか? という点だった。ラムエアーカイトはトレーリング・エッジを引き込んでターンするという仕組み上、小さいサイズの操作性は神経質でピーキーになりがちなのだ。その点、こいつは、実に程よい反応になるよう、良くチューニングされている。これには、この春からオゾンのバー・ラインナップに加わった38cmバーが効いているだろう。そう、クロノV2のラインナップ中、唯一7.0だけが、38cmバーとのコンプリートなのだ。
地上でカイトを上げ色々試した後にふと気がついた事がある。「風、全然ガスティじゃないじゃん?!」後で確認したら、やっぱりこの時もガスティを感じるコンディションだったらしいのだが、風の強弱をほぼカイトが吸収してしまっているようで、カイトから伝わるパワーフィーリングは実にスムーズかつマイルドなものだった。そのまま、水に入り132cmのツインチップで走り出すと、パワーは充分。一振りでスタートして、そのまま巡航に入る。漫然と走ってフィーリングを掴んでみる。とにかく、素直で安定していて、扱い易いパワーを常に供給してくれる。コンディションに対してはトリマーを数cm引いたあたりがベスト。全部伸ばしてしまうと、失速こそしないけど、要所要所でカイトが前に出ようとするきっかけをつぶしてしまうので、ジャンプかダウンウインドの時にしか使わないレンジという印象。アップ角は漫然と走っている限りは、普通にインフレータブルよりも良いというレベル。たぶん、エッジできっちりアップウインド取った時と同じくらいかな? ん〜なんか物足りないかな? と思って、トリマーを調整しなおして、真剣にアップウインドを意識した動きに入ったら、突然アップ角が明らかに変わって、凄まじい勢いで登り始めた。(あ、やっぱり、これはクロノだ…)と思い、たっぷりと海岸を距離を取ったら、今度はトリマーを全部伸ばしてダウンウインド。これは、V2ならではの安定感と、低速性能で、かなり快適。折から波の高い海面だったので、遊び心が生じ、レオばりのオンショア・ウエーブライディングまがいの動きも試してみるが、これがまたちゃんとついてくる! 正直、先代クロノで波の中でぐりぐりターンなんて、絶対やりたくなかったのだが、V2ではなんのストレスも無く楽しめる。
岸近くまで戻って来て、もう一度アップウインドレグに入ろうと、トリマーを、今度は全部引いてみて驚いた…全然走るのに足らない! レースバーじゃないから大して調整幅は無いはずなのに、さっきまでふんだんに足りていたパワーがスカスカになってしまうのだ。いやこれは強風側に、まだだいぶ余裕がありそうだな、と思いつつトリマーを少し戻してライディング続行。
実は7に対してレース・バーではなくフリーライド・バーを選んだもの、そのあたりが理由で、ハイアスペクトでコード長(翼の前後幅)の短いスモール・サイズの場合、レース・バーの、あのバカ広い調整幅があっても使えなくね? と思ったからだ。案の定、低速側はこれ以上伸ばしても、カイトが失速してしまって、かえって使いずらそう。欲を言うと、高速側(トリマーの引き側)はもう少しレンジが有っても良いかな? という気がするけど、特に本格的にレースをするので無ければ7はフリーライド・バーで充分用が足りそう。
一通り試して、現場に居た仲間にも試してもらった総合的な印象は、クロノV2は普通のカイトボーダーにも楽しめる、ウォーター・リランチャブルのフリーライド・ラムエアーカイトに仕上がっている、というもの。もちろん、取扱に違いはあるし、インフレータブルみたいにバンバン落としても大丈夫! というものでは無いけれど、とりあえず、飛ばしてライディングするのに何か、気をつけなければいけない所があるかというと、そんな事は無い。肩肘張らずに素直にライディングを楽しめるフリーライド・カイトとして仕上がっている。反面、これまでクロノやR1を飛ばす時に感じていた、どこか「今、俺が飛ばしているこいつは、選ばれたものしか使いこなせない超高性能の特別なマシーンなんだぜ!」 的なオラオラ感は全く有りません。そういう感覚に浸りたい方はR1を選ぶか、クロノの中古を探してください。
今回は海面が荒れていたのでツインチップで試したのだが、クロノV2が格段に生きるのは、たぶんハイドロフォイルと組み合わせた時だと思う。今回のテストでも、カイトに対してツインチップボードがついて行けずに足を引っ張っている、というクロノやR1の時に顕著に感じるフィーリングが、うまく抑えられているものの、それでも意識を切り替えてアップウインドを始めると、これまで見せていなかった本当の性能が引き出されるのを体感した。レースボードやハイドロフォイルと組み合わせると、これがもっともっと顕著に現れるのだろうと思うと、次にハイドロフォイルと組み合わせて試すのが楽しみでしょうが無い。あの桁違いの安定感と変わらぬ高性能から想像すると、本当にギリギリ微風でのハイドロフォイルには、本当に安心して使える一枚になりそうなのだ。実際今から、今度はどんな微風の日にクロノV2を試しに海に出ようか? とウインドグルを見ながら風の弱そうな日を探す日々を送っている今日このごろなのである。