2014年8月26日火曜日

点検日誌(クロノ18)




クロノ18の右翼が潰れやすいとのクレームを受けて、昨日フライトチェック〜今朝問題点を発見、修理しました。クロノは構造的にこれまでカイトボーダーや大半のカイトショップのスタッフの皆さんが扱ってきたものとは大分趣の異なるカイトです。というか、18くらいのサイズだとほとんどパラグライダーみたいなもんです。たぶん、調子が悪いと漠然と感じても、どこに問題があるのか、何を直せば良いのかさっぱり判らない事もあるかと思います。そこで、今回の事例の発生から解決までの過程を公開しておくことは、今後新たにクロノユーザーになった方の助けになるかと思い、経過を記録し、ブログにて公開する事としました。興味をお持ちの方はご一読いただき、今後のカイトライフの参考にしていただれけば幸いです。

クロノの右翼が潰れやすいという第一報を聞いた時に最初に思いついたのは内部に侵入した砂の可能性です。クロノのエアインテークはメッシュで閉じられていますが、目の細かい砂や、波に洗われたりすると、水と一緒に砂が内部に侵入してしまうことがあります。侵入した砂は飛んでいる内に次第にチップに集まって、細かいものは自然に外部に排出されますが、場合によっては、カイト内部に留まっている事もあります。そうなると軽さが命のフォイルカイトの場合、てきめんに悪影響が出てその部分が潰れやすくなったり失速しやすくなったりしてしまうので、チップ部トレーリングエッジに設けられたベルクロポケットから砂を取り出す必要があります。しかし、この事例の場合、砂はその原因ではありませんでした。次に考えられるのはサスペンション・ラインの一部に結び目が出来ていたり、何かが引っかかったりして、翼が奇麗に形成出来ていない可能性です。クロノのサスペンションラインは極めて細いので、本当に小さい結び目が出来ていたりすると、判らずに飛ばしてしまうことも、なきにしもあらずです。良く点検してもらいましたが、これも無し。となると、考えられるのはどこかのラインが間違って組まれている可能性か、どこかのラインが伸びてしまって(一部が木や草にひっかかったりして強い負荷がかかったりすると起こり得ます。)バランスが崩れたりという事が考えられます。これを点検するのは、左右のラインバランスを点検するのが有効なチェック法です。まず、ブライダルを揃えて何かしっかりしたものに固定します。続いてカイト側に回り込み、アッパーサーフェス側に立ってラインのカイトへの取り付け点ごとに左右のラインの延長が同じかどうかを全てのラインについてチェックします。でも、実はこれ、オゾンの工場を出荷するときに全数チェックされているので、使用後に起こったバランスの崩れをチェックする場合に有効という事になります。案の定、販売店において、このチェックをしてもらいましたが、やはり原因は見つからないとのことで、結局このカイトは僕の手元に送られてきて、僕自身点検することと相成りました。

まずすべきことは点検よりも先にフライトチェックです。ユーザーが不満を感じている現象が実際に起こるのか、それは本当にカイトの問題なのか、それとも原因が他にあるのかを見極めなければいけません。実際にカイトを上げてみると確かにチップ部分が潰れます。ただし、クロノのチップが潰れやすいのは結構元々。アスペクト比7.0で、この薄翼だから、ランチングや、ちょっとした挙動で潰れるのは、まぁハナから承知の上でのデザインです。で、このカイトの場合、確かに右翼のチップが左に比べて弱い。普通にライディングすると、ついつい無意識に修正して操作してしまうので、普通に扱えるのだけど、わざとカイトと対話しないで、漫然と飛ばしてやると右翼がちょっとした事で潰れようとします。翼に目に見える変形は無し。バーを引いた時のトレーリングエッジの変形には若干左右に差がある。してみると疑わしいのはブレークラインの左右不均衡ですが、左右のターン操作、バーの前後動作を試してみると、左右のブレークラインに効きの差は無い。また、バーを引いてブレークラインが引かれている時には全く問題の症状は起こりません。つまり、この問題はバーが引かれていない状態でのみ起こるという事になるので、疑わしいエリアは右翼チップ部トレーリングエッジよりを支えるライン群、B9~12、C9~12あたりと目星を付けました。でも、この辺りのラインの1本、あるいは数本だけの長さが狂っている場合、明らかに飛んでいるカイトの翼面に皺が出来ます。というかそもそも点検段階ですぐに発見出来るでしょう。という風に問題のある箇所を絞り込んでいくと疑わしい場所がだいたい判ってきました。一番の容疑者はブライダルのスピードシステム。プーリーを使ってバー操作をしたときの挙動を各ラインごとに減速して伝える部分です。ここのラインが狂っていると、B,Cライン全体の挙動に大きく関わってくるので、カイトに一見皺や、変形が見えなくても翼全体の形状が微妙に変形してしまいます。次に疑わしいのがチップに繋がるB12,C12あたりのライン。この2本は一番外側に着いているので、多少本来の設計からずれていても、ひと目見ては翼が変形しません。特にC12あたりが長すぎると、翼端は急に潰れやすくなります。と、ここまで目星をつけたところで、チェック作業は終了。風が吹いているビーチでラインチェックをしても作業がしづらいだけなので、点検そのものは翌日に持ち越して、その日は、ちょうど吹き上がってきた風の下、講習生の指導とライディングを楽しみました。

翌朝、まだ空気が動き出す前に庭にクロノを広げて点検を始めました。まず最初に最も疑わしいブライダルをチェック。細引きを使ってブライダルを一つにまとめてフェンスに固定して、左右のラインの長さ、プーリーの位置を比較します。すると…おやおや、PB1ラインにかかるプーリーの位置が右側の方が僅かに遠いではありませんか。(いきなりビンゴか?)と思い、今度は固定したブライダルを外し、左右のブライダルをばらして、ライン同士を比較してみました。すると案の定、右のPB1ラインが左より3cm長くなっています。3cmというといかにも長いように思えますが、このライン、折り返してプーリーを介し、Cラインで1/2、Bラインで1/4に減速する仕組みになっているため、ブライダルからカイトまでの総延長で発生する誤差は、Bラインで15mm、Cラインでは7.5mmです。正直出荷時点検で気付いて欲しかったとは思いますが、結び目の位置や、ラインを引っ張る時の力加減で、誤差の範囲内として見逃してしまう可能性もなきにしもあらずのレベルです。問題さえ見つかってしまえば修正は簡単。一方のループをばらしてラインを短く作り直して、元通りくみ上げて、左右のアンバランスが解消されているのを確認して作業は終了。本当はテストフライトをしたいところですが、秋雨前線がかかってしまった関東は数日天候不順の為、テストフライトは販売店にお願いしてカイトを送り返し、一連の経過をオゾンに報告して終了。オゾンではたぶん、今回のシリアルナンバーと同じロットの他の製品に問題が無いかをチェックして、必要があればテクニカルノートを配布することになるでしょう。

という風に、クロノはこれまで慣れ親しんだインフレータブルカイトとは異なる、結構デリケートなバランスの上に成り立っている製品です。(正直、実はインフレータブルだって決してデリケートで無いわけじゃありませんが、バランスが崩れても構造上修正のしようが無いというのが正直なところ…)何かおかしいかな? とか、どうも左右のバランスが取れていない? とか感じたら落ち着いて頭上に上げたカイトを良く観察してみて、必要な場合は僕がしたような手順で問題点をさぐってみてください。問題がある場合に、割と見える形でそれが発見出来て、簡単に修正できるのはむしろフォイルカイトの利点でもあるんですよ。