2014年3月12日水曜日

「クロノ」
 正直な所を言うと、水上で使えるウォーター・リランチャブルのラムエアーカイトというカテゴリーはいずれ、姿を消す運命にあるのだと思っていた。かつておつき合いしていた「アドバンス」のラムエアーカイト。なんとか皆に使ってもらおうとあれやこれやとプロモーションに努めたものの、時間を費やせば費やすほど、激しい競争の中でインフレータブルのデザインは磨き上げられていき、ラムエアーは苦境と偏見の中、方向性を見失い、全く使えない安物から、とんでも無い高価だが無意味な製品が混在する、混沌のマーケットへと落ち込んでいった。
 そんな時代、ラムエアーの存在価値をスノーカイトに絞り、水上での使用をあえて考えない事で、扱いやすさと安全性、高性能を実現した画期的なカイト「フレンジー」を開発したのがオゾンだった。そんなオゾンが、決して、その優れた開発能力をもって海用のカイトを作ろうとはしない事自体が、ラムエアーの海上における活躍に見込みが薄い事をを示していた。
しかし、時代は変わったようだ。コースレースというカテゴリーの登場である。ラムエアーの特徴である進行風のかかりの良さ、高速性能、軽さによる優れた微風性能が、微風時のコースレースに圧倒的なアドバンテージを見せるようになってきたのだ。もちろん、ハイドロフォイルの興隆も無関係では無いだろう。同時にオゾンがパラグライダーの分野で培った、高速のウイングをデザインする新しいノウハウが、カイトにフィードバックされるようになった事も、今日この日、クロノがウォーターリランチャブルのラムエアーカイトとして市場に登場する大きな要因だったのであろうと思われる。ともあれ、今季から、微風でも乗りたいカイトボーダーに新たな選択肢が提示される事となった事は間違い無い。

テスト
2014年3月11日、微風限界ぎりぎりを見極めるべく風の弱いのを狙って18.0のテストにビーチパークを訪れた。バッグから取り出したカイトを、砂浜に広げると実に細長い。リーディングエッジにはバテンが埋め込まれていて、地面に広げた時点で形が出来ている。ブライダルはピアノ線か?! と思うくらい極細で、慣れない人にはラインチェックが大変そうだ。この辺りは「いや、これ何も万人に乗ってもらおうと思って作った物じゃ無いから。」てな感じの作り手の割り切りが感じられる。コントロール・バーはランディングやバックリランチ用のブレークハンドルが付いている以外はマリン用のバーと同じ構成。実は通常のマリン用バーでも飛ばせる。

ランチング
この手のウォーターリランチャブルカイトは空気の入りがあまり良くないので、カイトを上げる前に少し空気を入れてやるプレ・インフレートという作業をするのが相場だ。しかし、ビデオを見ているとどうもそんな事をしないですんなり上げているように見えたので、今回は新品を広げたら、そのまま何もしないであげてみることにした。チキンループをフックして数歩後ずさりしてみると、意外なほどすんなりとカイトは風をはらみ離陸しようとする。そのままガイダンスビデオにあるとおり、バーを少し引いて少しプレッシャーを与えてやると、実にあっけなく空気を取り入れてしまった。もちろん一度もポンピングや、フロントラインを引っ張るなどの操作はは必要無かった。

空中での挙動
風は2〜3.5mくらいで不安定なのだが頭上に上がったカイトは実に安定している。バックストールの気配は操作している時も含め全然無い。リフトは非常に強く、こんな条件でもブローが入ると一瞬足が地面を離れたりする。ガイダンスビデオではカイトを頭上に置いておかないように、と指示されているが、確かに頭上に置いて安閑としていると危なそう。風が息をついてもバックストールをする気配も無く、むしろ限界を割って風が落ちた場合は(全く無風ってこと)そのままくずおれるように頭上から落ちてくる。
操作に対する反応は良い。操作から遅れる事無く動き出す…が、その後の動きはサイズ相応に決して早くは無い。後述するが微風でパワーを引き出す時に思い切り振り下ろした時などは早めの操作が必要だ。また、カイトを操作した時のパワーのかかり方の癖がインフレータブルとは少し違う印象がある。カイトを一気に振り下ろしてもそれほど大きなパワーの変化を感じず、むしろ振り戻したカイトが頭上に近づく頃に図太いパワーを感じる。

ライディング
この風で乗る事はほとんど期待していなかったのだが、どうもいけそうな感触なので水に入ってみた。ボードはリップタイド135x41。振り下ろした瞬間のパワーは充分にあるのでボードの上には問題無く立てる。かつて盛んに作られた旧時代の微風用カイトは、ここからカイトを振り上げる時にカイトが半ば失速した状態でパワーの空白状態を作ってしまうために結局ボードを走らせ続ける事が出来なかったのだが、クロノはこの状態でも失速しないでパワーを発揮して、あまつさえ再び頭上に戻る所で大きなパワーを発揮してくれるので、こんな風だというのにボードが止まってしまうことが無い。そのまま二振り目を振り下ろすと、ボードは一気に加速して進行風が加わったクロノは活き活きと走り始める。今回組み合わせているレース・バーではトリマーを20cmくらい引いた位置でカイトが気持ち良く走ってくれるようだ。そのまま速度を上げていくと、カイトを振らなくても安定した巡航に入った。「はは! 普通に走ってやがる、これ!」思わず口をついてこんなセリフが飛び出した。走っている最中に時折少し強めのブロー(といっても4mくらいだろうけど…)が入る事がある。この瞬間ぐっとパワーアップして「あれ? こんな風でオーバー?」と感じられるのだが、少しバーを押し出すと、それまで感じていたパワーが全てすっと前進速度変わって加速していく快感は、クロノ独自のものだろう。これ、実に気持ちが良い。今回のテストはツインチップを使ったが、感触としてはボードがカイトの性能の足を引っ張っている印象。これがレースボードやフォイルだったら、さらに微風が楽しそうだ。

トリック
有り余るリフトはトリックを実にのんびりと楽しくさせてくれる。こんな微風のエアトランジションだって、いつもの倍くらいゆっくり、高く進行する。たぶんバックロールなんかやったら回りすぎちゃってかえって失敗しそう。安定して長時間続くリフトのおかげで、レースボードやフォイルのタックは実にやりやすいとの事。ネガティブな面としてはカイトがやたら速いので、この微風環境だとターンの時などカイトを振り下ろす位置とボードを走らせる方向を上手にコーディネートしてあげないと、エッジまで振り切ってしまう。もっとも、他のカイトではそうそうこんな風で乗ることは無いので、比較で語る事は出来ないのだが…。まぁ、このカイトで楽しいのはオールドスクールのビッグエアーとか、滞空時間を活かしたトリックなど。波乗りははっきりオゾンのホームページに”出来ない”って書いてあるし、ウエイク・トリックなんて全然やる気にならない。

リランチ
ラムエアーカイトとインフレータブルの一番大きな違いはリランチの操作。片側のバックラインを引くインフレータブルに対してラムエアーは両側のバックラインを引いて完全にバックリランチさせてからランチングさせる。クロノの場合、そのために用意されたブレークハンドルの中央からややずれた位置を持って引き込んでやるとカイトがバックリランチしながらどちらか一方を向くので、リーディングエッジが上を向いたらブレークハンドルを離して離陸させてやる。注意して欲しい事は、リーディングエッジにバテンが入っているので、逆さまに地面に落ちている状態でカイトを動かすと、リーディングエッジを傷めてしまうこと。変にバックラインを片側引いたりしないで速やかにブレークハンドルに手を伸ばす習慣を身につけて欲しい。

ランディング
ランディングは通常のカイトと同じでエッジまでおろして仲間にキャッチしてもらうのだが、相手がキャッチしてくれたら速やかにカイト方向に歩いてカイトからテンションを抜いてあげるのが良いだろう。今回のテストでは独りだったのでセルフランディングを試してみた。まずブレークハンドルを用いたランディングだが、降ろすこと自体は問題無い。ただ、降ろした後にカイトをキャッチに行く事が少々問題だ。降ろしてもカイトからはすぐに空気が抜けないので、ラインを緩めればすぐにカイトが転がってしまう。実はカイトパッケージにグラウンドに突き刺せる杭が同梱されているので、これを予めランディングしそうな位置に用意しておくと、これにブレークハンドルをひっかけてカイトをキャッチしにいく事が出来る。これを用意するのを忘れてしまった場合は、セーフティーを働かせてカイトを落とし、1本残ったフロントラインをたぐってカイトに近づくと良い。ミドルアスペクトのラムエアーカイトでフロントラインの片方を残すとカイトが回ってしまって収拾が付かないのだが、ここまでハイアスペクトになると問題無く地面に落ち着いていてくれる。

良い点:
微風最強。絶対的な高速性能、サイズの割には素直でダイレクトな反応。ポンプを持ち歩く必要が無く、セッティングもあっという間。車内のスペースもあまり取らない。とにかく翼として美しい!

イマイチな点:
ラインテンションが緩んだ時の粘りはインフレータブルには叶わない。従って、シフティ、ガスティな風への耐性はインフレータブルに譲る。カイトをラフに扱ってボードに集中したい波乗りやニュースクールトリックには向かない。細いブライダルは慣れない人にはチェックが大変。

こんな人に:
レースやフォイルボードに興味があって、夏や風の弱い日の穏やかなフラット海面でスピード感や浮遊感を楽しみつつライディングしたい人、速度命でかっ飛ばしたい人、でかい微風用カイトに空気入れるのが嫌な人、翼にこだわったり、風と対話しながらエネルギーを引き出す事に喜びを感じる人、そんな人にクロノは思い切りお勧めです。ええ、そりゃもう明確な特性付けと個性バリバリのカイトです。万人向けだったりビギナー向けだったりなんて口が裂けても言うものですか(笑)。
地上では斜めの位置に置いておいた方が無難

戻しの操作が遅れてちょっとチップが接水。



ランチングは実にスムーズ