


スノーカイトから戻り、夕食を取った後に、レポートをまとめてから、数時間仮眠。オーロラ下での撮影のため10時に出発して、下手をするとホテルに戻るのは、午前3時! それからレポートを仕上げてアップロードすると、ベッドに入るのは朝5時を回ることも…。イエローナイフ滞在5日目にして、そんなハードな生活にもようやく慣れてきた感があるが、やっぱり朝は強烈に眠い!!
今日は風も安定した南東風が期待できるし、天気も快晴。スノーカイトが出来る最終日という事もあって、ちょっとした冒険にチャレンジする事にした。地元のスノーカイターがコンディションの良いときにするという、沖合20kmに位置する群島へのアウト&リターンだ。
一口に20kmといってもここは北緯60度の凍った湖の上、ひとたび何かトラブルに巻き込まれて、カイトで戻れない羽目になったら、なおかつ、夜までに人里に帰り着くことが出来なかったら、まず朝まで無事に過ごすことは出来ないという過酷な所。おまけに往復で40kmになる行程は平均時速20kmで、まったく休み無しで走ったとしても二時間はかかる。いざという時は携帯電話がつながるので、助けは呼べるという事だが、まずは相応の緊張感をもって滑走時の約束事を取り決めて、1時半に全員そろってスタートした。風は南東3~4m。弱いのが気にかかるが、予報では、これから強くなる流れで、昨日までの経験から湖の中央に向かうほど強くなる事が期待できる。
5kmほど進むと昨日遊んだプレッシャーリッジの、反対側の端近くにたどり着いた。ここでは、リッジはかなり背が高く、乗り越えるには若干リスクがあったので、風下にの小さな島の懐を回り込む。しかし、実はプレッシャーリッジはここで途切れているわけではなく、90度曲がってまだまだ延々と伸びていた。群島に向かうために、低い所を狙ってリッジを乗り越えて、さらに先を進める。このあたりまで来ると雪は風に飛ばされ、ところどころ吹きだまったり、堅くなっていたり、中には氷が青黒く顔を覗かせている所もある。足下の雪面が時々刻々変わるので、長時間の一定走行は結構足に応える。同時に湖の中央に進むに従って、アンダーだった風はジャストに変わり、島を目前に臨む頃には、雪面に対して若干オーバー気味になってきた。
このとき僕の脳裏で鳴っていた警鐘は、この風は単に地形的な影響で強くなっているのか? 時間的な変化なのか? という事だ。地形的な影響ならば、問題無い。島まで行って、多少オーバー気味になっても戻れば、問題は解決する。しかし、時間的な経過で、風が強くなっているとしたらどうだろう? それは帰路20kmの全行程、オーバーパワーのカイトを堅い雪の上、脚力で押さえ込みながら1時間程度走り続けなければならない事を意味する。いや、それ以上に風が上がった場合、カイトを上げていられない事になる可能性が有りはしないか? いや、それ以前にもう少し風が強くなったら、一回り大きい11m2を上げているジャスケンは限界に達してしまうだろう。そう逡巡していたら、案の定、ジャスケンが近づいてきて、カイトを小さいものに張り替えたいと声をかけてきた。島はもう目前まで迫っていたけれど、僕は安全側の選択を取ることにした。島まで行って少し休みたいという声を遮って、やってきたコースを風が落ち着くところまで戻ることにしたのだ。復路では、往路に風の強さを確認した所でも、明らかに風が強くなっていたので、ちょっと心配したのだが、結論から言うと杞憂だったようで、プレッシャーリッジを越えた島まで戻ったところで風はおちついた。ここで、一休みしながら、皆に事情を説明して、ピックアップの約束をしている所まで各自ダウンウインドして戻ることにした。残り12km程度を各自思い思いのコース取りで戻り、車の待っている所まで戻った所でイエローナイフでのスノーカイトのラスト・ランは終了した。僕のトラックで全行程37km、所要時間2時間17分、平均時速12km、最高速度36.7km。もちろん誰にとっても始めて体験する長距離のトリップだった。
全員そろって、荷物をパッキングして、さて、車がスタートしようという段になって、突然それまでそよ風程度だった所に突風が吹き込み始めた。心配していた強風は、タイミングこそ違え、やはり近づいてきていたと見える。
最後のオーロラ
ツアーに計画されているオーロラ鑑賞ツアーは昨日の晩まで。今夜は明日の帰国に備えてゆっくり休むプランだったが、ガイドの大塚氏が、個人的にオーロラを見に行くので、良さそうだったら一緒に行きますか? と誘ってくれた。もちろん断る理由は無い。夜11時に約束してホテルに戻ると、11時を待たずに連絡があった。すごく良さそうだから予定より早く動こうとのこと。”好きなものにバカがつく人”がこういう連絡をしてくる時には100%それに従うのが鉄則だ。僕らはあわてて準備をするとフロントに待ち構える大塚氏のデリカに飛び乗った。大塚氏があわてたのも道理。頭上には巨大なオーロラが、すでに天空をまっすぐ横切るように薄白く横切っている。こんな早い時間に、こんな位置に、こんな大きなオーロラが出たのは今日が初めてだ。郊外の湖畔で車を停め、湖上に出て行くと、すでにオーロラは僕らの頭上からはるか南まで広がっている。
ここまでの三回の鑑賞で判ったのは、南まで広がったオーロラがエネルギーを放出しながら収縮するときに発する凄まじいエネルギーが、いわゆるブレイクアップと呼ばれる現象で、この時オーロラは見る者を突き刺す光の矢のように天空から降り注ぎ、波打ち、脈打ちながら頭上を通り過ぎて行く。眺めている者に出来る事をただ頭上を振り仰ぎ、口を開いて、口々に感嘆の叫びを口にするだけだ。この晩オーロラは都合3回ブレイクアップして、大塚氏の言によればシーズンに数回あるかないかの素晴らしさで、僕らの旅の最後の晩を強烈な輝きで包みこんでくれた。
感謝
正直、この地に来て実物を見るまで、個人的にはオーロラというものにそれほど興味を持っていなかった。しかし、この地に来て、実物を体験して(鑑賞というのは適していないと思う)、また、オーロラに魅せられて、生涯をオーロラに捧げている人々に出会い、風の振る舞いに勝るとも劣らない、理論的な背景とは裏腹な気まぐれさ、生き物かと見まごうばかりの、躍動感を持つオーロラという自然現象に、ひどく感銘を受けた。震災の混乱もまだ収拾していない中、成田を発つのを躊躇しなかったと言えば嘘になる。しかし、やはり振り返ってみれば、多少の無理はしてでもこの地を訪れて良かったと心から思う。この得難い企画を提案してくださった里見氏、熱意を持ってガイドにあたってくれた大塚夫妻、現地のスノーカイト情報を提供してくれた、イエローナイフのスノーカイト馬鹿、クリスとグレッグ、そして、一緒に旅をしてくれた良き仲間達。全てに最大限の感謝を捧げてこのレポートを締めくくりたい。
P.S. 人口二万人足らずのカナダの陸の孤島、イエローナイフでも人々は震災に見舞われた日本人のために祈り、それぞれに出来る事に取り組んでくれていました。日本人がんばろう!
Photos are taken by Hisamichi Ohtani